律速段階(2)~木工編
2006年 07月 24日
さてさて、お客様からよく聞かれることのひとつ。
「どれくらいで出来ますか?」という質問。
ご注文の際の言葉なら、その時の抱えている仕事の状況によりますが、だいたいの納期をその場でお伝えします。だいたい小物なら1-2週間。テーブルセットなら1-2ヶ月。大きなものなら3ヶ月くらい。
だけども、ひとつのものがどれくらいの時間でできるのか?という純粋な質問の時は、
「うーーん。それはねえ。答えるのが難しいですネぇ・・・もごもご」
ってなります。一時期は丁寧に、
「加工する時間は何日くらい。でも板の乾燥時間やら塗装の乾燥時間やらかかります。また、大きなものだと、削ってはしばらく置いて、また削ってはしばらく、という工程を繰り返すので、はっきりと何日とは・・・」って答えていた時もあります
でも、そうやって細かく説明している最中にすでに当の相手は、こちらの話を聞いていない。
「そんなこと聞いてないんだよ!簡単に何日かかるって言えばいいんだよ!」って顔に文字が浮き出ています。
って言ってもねえ。そのたびに、人間の出来ていない僕は「んじゃ、聞くなよ!」って気分になるのでした。(なので、今は「いや~なんとも言えないですネ。ははは」と誤魔化しています)。
解剖学者の養老猛司氏の思想や言葉は、木工の仕事と重なることが多いのでいつも愛読していますが、上記のような反応をされる方は(といってもほとんどの方です。「私は木が好きで好きでしょうがない」って言われる方も含めて)、養老氏のいう「ああすれば、こうなる」という思考にどっぷり浸かっているように思われます。でも、農業や漁業の方は同意していただけると思いますが、自然相手のことは、ほとんど「ああすれば、こうなる」とはいかない。
なだめてすかして、相手(木工なら材料の木)に合わせるしかない。子育てみたいなもんですな。もちろん、上記のように納期の問題もありますし、技術や経験や知識でそこを制御はしていきます。ので、こちらとしては当然かかる時間は把握しています。そうじゃないと価格も付けられません。ただ、「何日かかる」という表現は出来ない。
というわけで、木工における律速段階です。
一番時間がかかるのは、もちろん木が育つ時間です。これは20年~100年~という時間。ただ、ここまで直接木工屋が関わると商売にならない。なので、ここは社会的分業で林業や製材業の方にお任せして、「木を買う」という行為で代償しています(でも、もう少し余裕が出来れば、この部分にも関わりたい希望はあり)。
じゃあ、丸太なり、板を買ったその後の律速段階は、というと木材の乾燥時間です。
一般的に一寸(約3cm)一年と言われておりますので、6cm厚の板だと約2年。自然乾燥だと実際はもう少しかかるみたいです。
もちろん、「乾燥材」ということで入手することも出来ます。でも、これが当てにならない。
「うん!もうすっかり乾いているよ!3年在庫だったから!」という言葉を信じて買った材が、削ったとたんみるみる曲がっていくことはざら。なので、やはり基準は工房で抱えてからの時間。
これがきついですね。お金的に。支払いは先ですから。そのあと使えるようになるのは2年後。
(人工乾燥も行いますので、そのとおりではありませんが、それを書くとまたややこしいので省略)
次にいざ作ろう!と板を加工しますが、上記に書いたように、実際の寸法より少し厚めにまず削り粗加工して、しばらくまた寝かせます(「シーズニング」といいます)。これが2週間~1ヶ月。
でいよいよ本加工に入ります。これはたぶん皆さんが思われているいるより圧倒的に早いはず。で、皆さんここの時間を聞いてそれが全てだと思うから、「それじゃ高いンじゃナイノ?」ってなるから、依怙地な木工屋はますます不機嫌になるわけですな。
すべて手作業であった昔と違い、今は加工の大部分を機械で行いますから、それは早い。
といっても、定番の作品ならいざしらず、たとえば家具のオーダーメイドであったら、お客さんの要望に合わせて、デザインや寸法を決めていきますので、その計算も一苦労。椅子など、ひとつひとつの部材の寸法が違うわけですから。
で、直角を出し、厚さを決め、仕口の加工をし、鉋をかけたり、面をとったり、仮組みをして、ペーパーをかけ、組み立てます。仮組みなどは、手道具による微調整をそこで行いますので予想以上に時間がかかります。
(これだけの手順があるわけですから、人によりスピードは違います。早いと時間が短くなります。するとまたまた「高い」と言われる。本当は逆ですけどね。この話はまた「熟練」というテーマで書こうっと)
で最後に塗装を施して完成。この塗装を拭漆などにすると、またここが律速段階(1ヶ月とか2ヶ月)になります。
ということで、また細かく説明してしまいましたが、やっぱり途中から読まないですよね。こんな長い文章。あーあ。
写真の椅子は、仕口の加工と脚のカーブを切り出したところで一日が終わり、帰宅する前にちょっと試しに組み立てたもの(作り手は、姿が早く見たいのです)。仮組みではありません。
各部の寸法はきちっとあっていたのでほっと家路(徒歩3分)につきました。明日から仕上げ加工です。
さて結論。木工における律速段階は、乾燥時間です。
さらに、ひとつの家具がどれくらいでできるか、という質問には「答えられません」。
さらに、ここでは加工の話だけを書きましたが、実は人間側の「デザインを考える~図面に落とす」、という律速段階があります。これはまた別に書きます(今度こそ短く書こうっと!)
という依怙地な木工屋に☆ワンクリックよろしく!☆
人気blogランキング
「どれくらいで出来ますか?」という質問。
ご注文の際の言葉なら、その時の抱えている仕事の状況によりますが、だいたいの納期をその場でお伝えします。だいたい小物なら1-2週間。テーブルセットなら1-2ヶ月。大きなものなら3ヶ月くらい。
だけども、ひとつのものがどれくらいの時間でできるのか?という純粋な質問の時は、
「うーーん。それはねえ。答えるのが難しいですネぇ・・・もごもご」
ってなります。一時期は丁寧に、
「加工する時間は何日くらい。でも板の乾燥時間やら塗装の乾燥時間やらかかります。また、大きなものだと、削ってはしばらく置いて、また削ってはしばらく、という工程を繰り返すので、はっきりと何日とは・・・」って答えていた時もあります
でも、そうやって細かく説明している最中にすでに当の相手は、こちらの話を聞いていない。
「そんなこと聞いてないんだよ!簡単に何日かかるって言えばいいんだよ!」って顔に文字が浮き出ています。
って言ってもねえ。そのたびに、人間の出来ていない僕は「んじゃ、聞くなよ!」って気分になるのでした。(なので、今は「いや~なんとも言えないですネ。ははは」と誤魔化しています)。
解剖学者の養老猛司氏の思想や言葉は、木工の仕事と重なることが多いのでいつも愛読していますが、上記のような反応をされる方は(といってもほとんどの方です。「私は木が好きで好きでしょうがない」って言われる方も含めて)、養老氏のいう「ああすれば、こうなる」という思考にどっぷり浸かっているように思われます。でも、農業や漁業の方は同意していただけると思いますが、自然相手のことは、ほとんど「ああすれば、こうなる」とはいかない。
なだめてすかして、相手(木工なら材料の木)に合わせるしかない。子育てみたいなもんですな。もちろん、上記のように納期の問題もありますし、技術や経験や知識でそこを制御はしていきます。ので、こちらとしては当然かかる時間は把握しています。そうじゃないと価格も付けられません。ただ、「何日かかる」という表現は出来ない。
というわけで、木工における律速段階です。
一番時間がかかるのは、もちろん木が育つ時間です。これは20年~100年~という時間。ただ、ここまで直接木工屋が関わると商売にならない。なので、ここは社会的分業で林業や製材業の方にお任せして、「木を買う」という行為で代償しています(でも、もう少し余裕が出来れば、この部分にも関わりたい希望はあり)。
じゃあ、丸太なり、板を買ったその後の律速段階は、というと木材の乾燥時間です。
一般的に一寸(約3cm)一年と言われておりますので、6cm厚の板だと約2年。自然乾燥だと実際はもう少しかかるみたいです。
もちろん、「乾燥材」ということで入手することも出来ます。でも、これが当てにならない。
「うん!もうすっかり乾いているよ!3年在庫だったから!」という言葉を信じて買った材が、削ったとたんみるみる曲がっていくことはざら。なので、やはり基準は工房で抱えてからの時間。
これがきついですね。お金的に。支払いは先ですから。そのあと使えるようになるのは2年後。
(人工乾燥も行いますので、そのとおりではありませんが、それを書くとまたややこしいので省略)
次にいざ作ろう!と板を加工しますが、上記に書いたように、実際の寸法より少し厚めにまず削り粗加工して、しばらくまた寝かせます(「シーズニング」といいます)。これが2週間~1ヶ月。
でいよいよ本加工に入ります。これはたぶん皆さんが思われているいるより圧倒的に早いはず。で、皆さんここの時間を聞いてそれが全てだと思うから、「それじゃ高いンじゃナイノ?」ってなるから、依怙地な木工屋はますます不機嫌になるわけですな。
すべて手作業であった昔と違い、今は加工の大部分を機械で行いますから、それは早い。
といっても、定番の作品ならいざしらず、たとえば家具のオーダーメイドであったら、お客さんの要望に合わせて、デザインや寸法を決めていきますので、その計算も一苦労。椅子など、ひとつひとつの部材の寸法が違うわけですから。
で、直角を出し、厚さを決め、仕口の加工をし、鉋をかけたり、面をとったり、仮組みをして、ペーパーをかけ、組み立てます。仮組みなどは、手道具による微調整をそこで行いますので予想以上に時間がかかります。
(これだけの手順があるわけですから、人によりスピードは違います。早いと時間が短くなります。するとまたまた「高い」と言われる。本当は逆ですけどね。この話はまた「熟練」というテーマで書こうっと)
で最後に塗装を施して完成。この塗装を拭漆などにすると、またここが律速段階(1ヶ月とか2ヶ月)になります。
ということで、また細かく説明してしまいましたが、やっぱり途中から読まないですよね。こんな長い文章。あーあ。
写真の椅子は、仕口の加工と脚のカーブを切り出したところで一日が終わり、帰宅する前にちょっと試しに組み立てたもの(作り手は、姿が早く見たいのです)。仮組みではありません。
各部の寸法はきちっとあっていたのでほっと家路(徒歩3分)につきました。明日から仕上げ加工です。
さて結論。木工における律速段階は、乾燥時間です。
さらに、ひとつの家具がどれくらいでできるか、という質問には「答えられません」。
さらに、ここでは加工の話だけを書きましたが、実は人間側の「デザインを考える~図面に落とす」、という律速段階があります。これはまた別に書きます(今度こそ短く書こうっと!)
という依怙地な木工屋に☆ワンクリックよろしく!☆
人気blogランキング
by morinoki8
| 2006-07-24 19:45