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handicraft森の樹の日常をなんとなく。木工のお話も。


by morinoki8
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工房スタートから10年を前にして

小黒先生と同行して来沖された陶芸家の近藤氏が自らの修行時代を振り返りながら次のように言われました。

「師匠の作るものを、師匠の技を完全にコピー出来るようになるまでが修行なんだよね。でも、どうしても『自分』が出ちゃう。ダメな人ほどすぐ『自分』が出て来るんだよ」と。

小黒先生は、糸鋸の職人として工房に入りたい人に対して「一年間、ひたすら線を切る練習をしてください。1年間続けられたら合格です。工房で受け入れます」と宣告されているとのことでした。

共に重い言葉だと思います。

僕自身は、そういう直接の師匠を持たず、職業訓練校と建具屋を駆け足で抜けた後、やはり駆け足で日銭稼ぎにモノを作り始めた人間なので、そういう師弟関係をとてもうらやましく思います。そういうことができるのは十代か二十代前半までのことでしょう。

世の中には、すぐオリジナルだ、「自分らしさ」だという人がいますがどうにも薄っぺらい。師匠の獲得したものを自分もまた獲得した上で、それでも溢れ出てくるもの、そこではじめて「オリジナル」と言えるのでしょう。

同じく一緒にお話した木地玩具作家の平林さんは「いままでにないからくり独楽を考えるのに四苦八苦しています。よおし、これならどうだ!というものを考え付いても、調べてみると、たいてい師匠がすでに作っている物だったりするんですよ」と云われていました。
やはり、オリジナル/創造の難しさを語られたのだと思います。

極端な例ですが、「他人と違うことをするのがオリジナルだ」と思っていると思われる知り合いの木工屋がいます。彼は極端なので、道具の使い方も本来の使い方をあえて外します。小さな丸い穴を開けるときにはドリル錐を使えば簡単なのですが、他人と同じことをしたくない彼は、ルーターという重たい機械を使います。平面を研磨する時には、ベルトサンダーという便利な機械があるのですが、かれはポリッシャーという高速円運動をする機械を使います。またサンドペーパーは一般に方向性がランダムですが、彼は、仕上げ鉋のように気合を入れて一方向に滑らせます。

結局、膨大な時間をかけて不完全な仕事が出来上がります。当然の結果とはいえ悲しいことです。

だって機械だって、鑿や鉋やノコギリだって、全部自分が考えたものじゃなくて、1000年を超える歴史の中で、気の遠くなるような試行錯誤と仕事によって現在の形になっているんですから。
作るものも椅子だってテーブルだって基本的な形は決まっています。脚が29本ある椅子は誰も作りません(アートならば別の話ですが)。

そんなこんなを無視して出来上がるものはオリジナルなんてものではなくて、単なる出来損ないですよね。

と、他人の批判をしておいて、じゃあ、てめえはどういう風にものを作っているのか?エラソーなことを言ってないで、それを聞かせろ!と言われるでしょう。
実は、この7月に、はじめて自分の名前でプロの展示会に出品して丸十年になります。
吉本隆明が「なんでもいい、ひとつのことを10年続けることができれば、それで食えます。一人前です」と繰り返し言っています。その言葉を信じてやっとここまで来ました。

この機会にちょっといままでを振り返って、そして次の5年、10年を、どうしたいのか、どうすべきなのか、自分のための指針として考えてみたいと思っています。

とはいえ、吉本隆明は「丸々10年じゃないと駄目ですよ。9年と364日では駄目ですよ(笑)」とも言っています。ということは後半年まだ残っています。この大不況の中、それまで持つか、handicraft森の樹?!
by morinoki8 | 2009-01-28 19:19 | 工芸